92. 聞き上手

【聞くだけの治療】
「聞き上手、必ず裏の顔をもち」などという、斜に構えた川柳がありますが、今回は真面目な話。
 思春期の迷路に迷った子どもたちを救う方法としてお伝えしている、ただ聞くという方法。
 子どもの話を、親の意見をはさまず、黙って聞くことがどれほど有効であるか、それを実践できた方には分っていただけたと思いますが、けっして簡単なことではないのも事実です。

【変化がない】
 中2のAさんが不登校になったのは、中1だった1月中旬。当院を受診されたのは、4月初旬のことでした。
 親が、子どもの話を黙って聞くことのノウハウをお伝えして1ヶ月。母親は、浮かぬ顔で来院しました。
「Aの話を黙って聞いていますが、ほとんど変化がありません」
「黙って聞いている時のAさんの様子にも、何の変化もなかったのですか?」
「今までにないほど、たくさんのことを、時々泣きながら話してくれました」
 子どもが泣くほどに、子どもの話を親が聞いているのに、何の変化もないというのは不思議なことです。

【本当は、、、】
「表情が明るくなった、とかの変化はありませんでしたか?」
「表情はとても明るくなりました」
「朝早く起きるようにはなりませんでしたか?」
「え、ええ、早く起きるようにはなりましたが、学校へ行く素振りをまったくみせません」
 表情が明るくなったのも、早起きができるようになったのも、親が黙って聞けたことの成果だったのですが、母親は、登校することを唯一の成果と考えていたので、その変化を十分な成果とは思えなかったのです。
 Aさんに起こった変化は、短期間にしては、十分すぎる成果であることをお伝えしました。

【成果の実感】
「お母さまが、いいなあ、と感じた子どもの行動は全て、成果と思えばいいのです」
 成果の感じ方を知った母親は、月々の受診ごとに、黙って聞く術を会得してゆきました。
「やっと分りました」は、つい最近の母親の言葉。黙ることの成果を実感することが、聞き上手になる早道なのです。
次回は、「男と女の差」

「東葛まいにち」掲載記事より
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