56. 家庭の役割

【話せる場】
「あのね、、、」
 おやつを頬張りながら、学校であったことを、機関銃のように話す子ども。
 心に持ちきれないことも、話すことで軽くなるのは、誰もが実感すること。
 家庭が、私たちの安心と休息の場であるのも、自分を表に出して話せる場であるからに違いありません。中でも、子どもにとって、聞き役としての母親の存在は特別です。

【中学受験】
 Y君は小学校5年生。
 母親が、校区の中学校での学級崩壊の噂を耳にしたのは、Y君が4年生の時。父親と相談し、私立中学受験を決意しました。
 Y君は、少年野球を止め、塾に通うことになりました。
 塾にはまじめに通い、塾のない日は、母親から勉強を教わる日々。そして1年、ご両親が彼の大きな進歩を喜んでいた矢先、Y君に変調が現れました。母親の言葉の一つ一つに反抗を始めたのです。
 反抗は日に日に強くなり、やがて、まったく勉強をしなくなりました。口数が減り、元気もなくなったY君。困惑した母親は、Y君を連れて来院しました。

【話す隙間】
 Y君は、何でこんなところに連れてきた!、という顔。
 Y君から経緯を細かく聞きました。Y君には、自由に息がつける時間がほとんどなかったのです。わずかにテレビゲームをする時間、それも、一日30分と制限されていました。
「Y君には、お母さんに話を聞いてもらう時間がなかったようですね」
「どういうことですか?」
「Y君は、お母さんからの命令、忠告、提案などの話を一方的に聞くばかりで、自分が話す隙間がなかった、と」
「そういえば、、、」
 Y君と母親の関係の修復には、長い時間は必要ありませんでした。

【増える口数】
 1年間の母親の支配的な姿勢は、あくまでも受験のため。少年野球をやっていたのも、子どもは元気がなにより、との考えからで、学級崩壊の噂を聞くまでは、自由な子育てをしていたのです。
 1カ月後、Y君の顔から険しさが消えていました。
「ずいぶん元気になりました。塾にも通い始めました。口数も増えましたし」と母親。
 母親の聞く耳が大きくなれば、増える子どもの口数。その分だけ、子どものストレスは軽くなっていくのです。
 母性のもつ受容と忍耐という特性は、家庭において、想像以上の役割を果たしているのでしょう。
 次回は
「五月病」

「東葛まいにち」平成13年4月11日号掲載記事より
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