45. 異食症

【氷食症?】
 異食症は、ラテン語でPICAといい、鳥のカササギという意味。このカラス科の鳥が、なんでもかんでも口に入れるところから名づけられたとか。
 異食症の定義をみると、特定の非栄養物質の強迫的、常習的摂取、などと書かれています。要するに、栄養にもならない、きまった物を無闇に食べる、といった意味。
 食べる対象となるものは、土、粘土、小石、紙、髪などから、タバコ、氷にいたるまで様々、マッチ棒の軸なんて例もあります。
 変わった症状ですが、その中で氷食症は、思春期の子供にはけっして珍しくありません。もっとも、氷食症は私の訳語。正式な日本語訳はなく、pagophagiaというギリシャ語名があるだけです。

【今だから言える】
「先生、お陰さまで元気になりました。ありがとうございました」と言うお母さんの横で、中学3年生のS子さんは、照れくさそうに微笑んでいました。
「今だから言えるのですが」と、お母さんは前置きして、「先生に、初めのころ、『季節に関係なく、頻繁に氷を食べませんか?』と質問されたおり、『いいえ』と答えましたが、実は、先生が言われた通り、氷をバリバリ食べていました」
「・・・・」
「余りに変な行動でしたので、『いいえ』と答えてみましたが、治療とともに食べなくなったのにはびっくりしました。鉄欠乏の症状だったのですね」

【珍しくない異食症】
 当初、S子さんが来院された理由は、朝起きにくく、物事に集中できない、というものでした。血液検査で、貧血のない鉄欠乏症という病気であると分かりました。鉄欠乏性貧血の一歩手前の状態です。
 貧血のない鉄欠乏症の症状としては、持久力の低下、集中力の低下、記憶力の低下などが知られていますが、氷食症も結構頻繁にみられる症状なのです。注意して調べてみたところ、鉄欠乏症と診断された思春期の子供たちの約20%に氷食症が見られました。

【氷食症は近代病】
 冷凍庫が発明されてから発生したという氷食症は、いうなれば近代病。鉄分の不足しがちな思春期の子供たちの中に、密かに隠れています。もしかして、と思われた方は、病院へ行って血清フェリチンを測ってもらって下さい。12ng/ml以下なら、貧血がなくても鉄欠乏症です。3〜4ヶ月鉄剤を飲むと治ります。
次回は
「心身症と身心症」
「東葛まいにち」平成12年5月13日号掲載記事より
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