21. きれる

 ここのところ多発する,思春期の子供がからんだ死傷事件.
 「ごく普通の生徒でした.どうして『きれて』,こんなことになったのか分かりません」と,関係者の話.『きれる』という言葉が悪い,という方がいました.普通の子供が『きれる』では,だれもが『きれて』いいように響く.はっきりと,我慢がきかずに,といえば,本人の責任がはっきりすると.なるほど.

【おとなしい子供が】
 D君は,小学校5年生.それまでおとなしかった彼が,突然,茶碗は投げる,障子は壊す,弟はいじめる,あばれ始めるようになったのは,3学期に入って間もなく.母親は,「何か,頭の病気にでもなったのでは」と来院しました.一応の検査をしましたが,特に異常はありませんでした.
 これまでのD君について,母親の話によると,小学校4年の1学期から,中学受験塾に週3回,ピアノと習字のおけいこにそれぞれ週1回通っていたとのこと.多少神経質なところがあるものの,素直で,やさしい子供だった,ということでした.

【子供のことを真剣に考える親】
 中学受験は,本人の将来を考えて,親が決めたこと.塾へは,たまに行き渋ったものの,励ますことで,一度も休んだことがないこと.おけいこが忙しく,決まった遊び友達はいないこと,なども話してくれました.
 子供のことを真剣に考える親,親のいうことを素直に聞く子供.一見,いい親子関係のように見えますが,実は,素直に聞くという部分に問題があります.ここでの素直は,自分を主張したくともできない子供,と同じ意味なのです.

【親の枠をはめられた子供は】
 親の枠をはめられた子供.彼らみずからの考えや行動は,直接的,婉曲的,いろいろな形で拒否,否定され続けます.それを敏感に感じとってしまう子供たち.その一人がD君という訳です.
 拒否,否定され続けるうち,潜在意識下に発生する,まわりの全てに反発したい,という病的な衝動.他からの注意,命令などは,それがどんなに些細なものであっても,反発行動の種になります.ただ,潜在的な衝動のため,反発行動をとってしまった本人さえ,なぜ自分が短絡的な行動を起こしたのか分かりません.

【D君を他山の石に】
 D君の『きれる』は治りました.治療には,おけいこの全面中止と,ファミコンびたりの毎日に目をつぶる必要がありました.
 感性の鋭い子供の場合,大人の考えを押しつけるのには,よほど注意しないと危ない,という例です.
 次回は、「愛とは」

「東葛まいにち」平成10年4月25日号掲載記事より
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