20. 父親の役割

 父親は一家の長として,家族を経済的,精神的に支える役を負っている,という「父の役割」の一般論.今日では,この一般論すらあやしい様ですが,今回は,不登校を治療する過程で,父親の果たした役割についてお話します.

【人為的母子家庭】
 人為的母子家庭.父親の単身赴任の意味です.夫婦が生きていながら,なぜ別々に暮らさなくてはならないのか,私は,社会問題としてもっと取り上げられるべきだと思います.いろいろな理由はあるにしろ,不登校に陥った子供を抱える母一人の立場はとてももろく,子供のために頑張ろうとする姿は不憫です.

【責められない母親の心】
 これまで,思春期をとりまく病気の原因の多くが,親の子供への介入,干渉のし過ぎであるとお話してきましたが,母親一人の場合,母親にかかる子育ての責任は半端ではありません.曲がった子供には育てたくない,という一心は,子供への介入,干渉という結果となって現れます.とても責められない母親の心.

【父親のいる母子家庭】
 単身赴任でない単身赴任もあります.子育てにはいっさい参画しない父親,仕事と称して家を空けることの多い父親,自己中心的で未熟性のある父親,いずれも子育てに関しては,精神的な別居と同じです.

【O君は不登校】
 O君は一年以上も不登校を続けていた中学二年生.家にこもりっきりで,昼夜を取り違えた生活を送っていました.ご両親が病院を訪れた時にも,O君の姿はありませんでした.
 例によって,いろいろな型の不登校があることを話し,まじめ型の不登校の多くは,子供を信じ,受け入れることでよくなることを伝えました.
 不登校している子を信じる.一見ばかげたことのようですが,基本的に,子供には罪はないのです.

【父親の役割】
 O君の顔を見ぬまま,彼が学校へ行き始めるのには,十カ月ほどかかりました.たまに病院に顔をみせていた父親は「ようやく,信じることの意味が分かった気がします」と一言.
 子供と共有する時間の少ない父親は,母親を介して,その役割を果たしたのです.母親に対する受け入れ姿勢をとることによって,母親が,子供を信じ,受け入れることを手助けしたのです.
 具体的には,母親の話の上手な聞き役になったこと.ただ,そこに至るまでには,幾つかの葛藤があったことは,傍からみていても分かりました.

【愛の勝利】
 受け入れることは,すなわち愛.両親の愛の勝利とも言えそうです.
 次回は,
「きれる」について.

「東葛まいにち」平成10年3月28日号掲載記事より
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