6. 頭のよくなる薬

【思春期は鉄不足】
 前回,「貧血のない鉄欠乏症」というあまり耳慣れない病気に触れましたが,今回,鉄欠乏について少し詳しくお話します。
 思春期を迎えた子供は,極端な言い方をすれば,全員が鉄欠乏と言っていい位です。成長のスパート分だけでも,推定 200~300mgの鉄が余分に必要です。これは,からだ全体の鉄分の約10%,一日の鉄必要量で換算すると,約6カ月分の鉄不足という勘定になります。ここに,スポーツ,生理,ダイエット,ストレスなど,鉄のマイナス要素が加わると,本格的鉄欠乏に発展します。

【鉄が不足すると】
 では,鉄欠乏になると何が悪いのでしょうか。
 鉄は,からだのエネルギー作りと酸素利用のために,なくてはならない大切なミネラルです。少々減ったぐらいでは,どうということも起こりませんが,からだ全体の鉄分の約30%以上が減ると,エネルギー不足の症状(貧血のない鉄欠乏症)が,約45%以上が減ると,酸素不足の症状(鉄欠乏性貧血)が加わります。エネルギーが不足して困るのは,まず筋肉ですが,脳も困ります。実は,脳は全エネルギーの20%近くを消費しているのです。脳のエネルギー不足は,集中力の低下,理解力の低下を引き起こし,学力低下の原因になります。

【鉄欠乏は多いのでしょうか】
 このエネルギー不足の原因となる鉄欠乏症(「貧血のない鉄欠乏」と鉄欠乏性貧血の総称)が,思春期の子供にどの位みられるのか,ちょっと心配です。頭痛,めまい,だるさなど,色々な症状で私たちの病院を受診した,思春期の子供たち547人のうち,なんと30%以上の男女が鉄欠乏症でした。また,埼玉県の高校1年生1,416人を対象に行った貧血(鉄欠乏)スクリーニングの結果では,鉄欠乏症が,男子の約10%,女子の約40%にみられました。この内,「貧血のない鉄欠乏」は,特殊な血清蛋白を測定しないと診断できません。見逃さないよう注意が必要です。

【頭の良くなる薬】
 せっかくの知能を持ちながら,鉄不足のために,その能力を十分に活かせない子供がいる。それも,一見健康そうな子供たちの中に隠れているのです。
 冗談交じりに,頭のよくなる薬はない,といいますが,鉄不足の人にとって,鉄は,まさに頭のよくなる薬なのです。
 次回は,
思春期は反抗期?という話です。