5. スポーツ貧血

【スポーツ障害】
 毎回,スポーツの悪口を書き続ける私は,決してスポーツを憎む者ではありません.過去には,長距離走,剣道,空手と,ちょっとハードなスポーツに手を出していました.ですが,椎間板ヘルニアで引退せざるを得なかった自分を振り返って,スポーツをする者は,スポーツ障害についてもっと敏感になってほしいと思うのです.

【スポーツで貧血が】
 スポーツをすると,からだの鉄分が減ってしまう.まさか,と思う方もいるかもしれませんが,本当です.スポーツによって鉄欠乏になることを,スポーツ貧血といいます.
 なぜ鉄欠乏が起こるのか.残念ながら,絶対にこれ!という原因は分かっていません.今のところ最も有力なのは,足の裏にかかる衝撃が足の裏を通る血管を踏みつぶして,その中を流れる赤血球を破壊している,という説です.赤血球は,血色素鉄という酸素運搬役の鉄を大量に含んでいます.その血色素鉄が漏れ,尿から排泄されてしまうというのです.
 思春期は,成長のスパートによって鉄必要量が増えたり,月経が発来したりと,もともと鉄分不足に傾きやすい時期なので,スポーツ貧血の問題には特に配慮が必要です.

【記録の落ちた陸上部のエース】
 R子さんは,長距離走の選手で14歳,陸上部の中ではエース格でした.ある時から急に記録が落ち始め,コーチの勧めで私どもの所へやってきました.「すぐに息が上がってしまうんです.コーチが,貧血かもしれない,といってました.」
 血液検査をして,「貧血のない鉄欠乏症」と診断しました.鉄欠乏性貧血の一歩手前の状態です.診断には,特殊な血清蛋白の測定が必要で,見逃されることも多い病気です.早速,鉄剤治療を始めました.

【鉄剤でスポーツ貧血がなおる】
 そして1カ月後,R子さんは,元気な顔でやってきました.
「最近,あまり息が上がらなくなりました.寝起きも楽になりました.それと,なんか,頭もすっきりした感じです.」
「それはよかった.でも,からだの鉄分不足は,まだ本当には治っていない.ここで薬をやめれば,また元に戻っちゃうよ.」
「走るのは続けていいですか.」
「鉄のことだけ考えると,やめた方がいいけれど...」と,口ごもるしかありません.毎度のことですが,選手達の真剣な目をみては,「やめろ!」とはいえません.
次回は,
鉄は頭を良くする栄養素,というお話しをします.